11月初旬、サン・クリストバル・デ・ラス・カサスからオアハカに移動しました。
サンクリストバルには10日ほど滞在したのですが、ほとんどの日が雨で、最後の二日間だけ太陽を見ることができました。
本来もう少し滞在する予定だったのですが、僕は雨が嫌いなうえ、サンクリストバルは標高2000mに位置しているので、一日中曇っていると結構寒い。
ですから、名残惜しい気持ちもありますがこれくらいで離れることに決めました。
サンクリストバルからオアハカまでの行き方は僕が調べた限り二等バスか一等バス(OCCまたはADO)の二択で、一等バスだと1,164ペソ~1,351ペソ(9,994円~11,599円=2023年11月)二等バスだと400ペソ(3,434円)
また、一等バスはサンクリストバルから直行便が出ていますが、二等バスは一度チアパス州の州都トゥストゥラ・グティエレスまで行き、そこからオアハカ行のバスに乗り変えなければなりません。
当然、僕は二等バスを選択することになります。
サンクリストバルからトゥストゥラ・グティエレスまではコレクティーボという路線バスが出ていて1時間ほどで到着します。
僕はトゥストゥラ・グティエレスで三日滞在し、夜行バスに乗ってオアハカに向かいました。
オアハカまで12時間の道のりです。
この道中二等バスの洗礼を受けることになります。
トゥストゥラ・グティエレスの宿から二等バスのバスターミナルまでタクシーで移動します。
宿の前でタクシーに乗車し、運転手に「ロス・アンシアノスのバスターミナルまでお願いします」と告げました。
それからしばらく進むと運転手は、どこに行くんだ? と聞いてきます。
僕は、オアハカまで行きます。と答えます。
すると運転手はどこから来たんだ? 聞きます。
私の出身は日本です。と答えました。
しばらくして運転手はロス・アンシアノスのターミナルからはオアハカ行のバスは出ていない、と言うのです。
そんなはずはない、僕はそのターミナルでチケットを買ったんですから。と言うと
運転手はバックミラー越しに、明らかに怪訝な表情を浮かべ無線で営業所に確認を入れます。
「ロス・アンシアノスのターミナルから通常オアハカ行のバスは出ているか?」
すぐさま何らかの返答がありましたが、雑音が混じり僕のスペイン語の能力では聞き取れませんでした。
運転手は無線に了解。と告げ、今度は僕にやっぱりあそこからはオアハカ行は出ていないぞ、と言います。
僕は少し考えました。
それは本当だろうか? 僕は確かにロス・アンシアノスというターミナルまで行き、チケットを買った。でも買った場所と乗車する場所が違う可能性もある
でもそうであるならば乗車場所が違うことをチケット売りは言ってくれるはずだろう。
でもここは日本ではなくメキシコでそんなことまで言ってくれるだろうか?
それに二等バスなど事情の分かった地元民しか乗らないのだから、教えてくれない可能性の方が高いのではないか。
そんな考えが頭の中を駆け巡ります。
幸い時間には余裕があったので、違ったらまたタクシーを捕まえて乗車場所のターミナルまで向かえばいい。
そう思い、とりあえず向かってくださいと運転手に告げました。
運転手はいいんだな、と念を押し、はい。と答えると、わかったと言い、そのままターミナルまで向かいました。
ターミナルに到着すると僕はすぐさまチケット売りにこのバスはここで待っていれば来ますか?と聞くと
大丈夫だと、あと30分ほどで到着するからそこで座って待っていなさいと返答しました。
僕はほっとしました。
それにしてもあの運転手はなんでここからオアハカ行のバスが出ていることを知らないのでしょうか?
何度もこのバスターミナルに客を運んでいるはずなのに。
運転手だけではなく、無線で連絡を取った営業所の人間も知らなかったのです。
考えられるとすれば、普通の外国人観光客がオアハカに行く場合、ADOやOCCという一等バスに乗るはずで、それらのターミナルは別のところにありますから、そっちのターミナルにしかこれからオアハカに行く乗客を運んだことがないということでしょうか。
それでも運転手ならどこのターミナルからどこそこ行のバスが出ているという情報を知っているものだろう、と思うのですが
それは日本人の考えなのでしょうか。
何はともあれ、20:30発のオアハカ行のバスは定刻より少し遅れましたが、無事ロス・アンシアノスのターミナルから出発しました。
しかし、これで終わらないのが二等バスの定めでしょうか、それとも僕の運が悪いだけでしょうか。
バスはトゥストゥラ・グティエレスを出発して5、6時間経った頃、フチタンという小さな街の少し手前で急にストップしてしまいます。しかもハイウェイのど真ん中で。
窓から外の景色を見ると、これまで何度か休憩のために立ち寄ったコンビニやガソリンスタンドとはどうも違う雰囲気です。
おかしいと思い外に出てみると、何やら皆が騒然としています。
僕は拙いスペイン語で運転手に事情を聞くと、運転手も焦っているのか早口でまくし立てるように喋るので何を言っているのかさっぱりわかりません。
仕方なく他の人にどうなっているんですか?と聞くと
このバスはここまでしか進まない、これ以上行けないんだ。というようなことを言っています。
僕はバスが壊れたのですか? と聞くと、そうだ。と答えます。
よくバスを見渡すと、後ろのタイヤが一つ外れているのです。
僕は驚きと同時に呆れてしまいました。
とにかくこれからどうなるのか運転手に尋ねます。
運転手はまたまくし立てるように喋ります。
僕は今度はよく聞き耳を立てて構えます。
もうすぐ替わりのバスが来るからそれに乗ればいい、しかしそのためにはもう300ペソ払わなければならない。と言っています。
今度は言葉は何とか聞き取れましたが、言っている意味が分かりませんでした。
なぜ、バス会社の整備不良で運行不可能になったバスの代行料金を僕たちが払わなければならないのでしょうか。
しかも300ペソ、日本円で2,600円も。
そう思い、何か言ってやろうと言葉を考えていると、現地の初老の女性が運転手にすがるように、私はお金を持ってないの、お金を持ってないんだよ、と何度も言います。
しかし運転手は勘弁してくれよと言わんばかりに両手を広げ、何を言われても無理なものは無理だというようなことを言っています。
僕はそのやり取りを見ていると、なんだか怒る気が失せました。
おそらく何を言っても通じない。ここは日本ではないのだと。
それに僕は見ていました、あの女性が大きなバスケットを抱え乗車するのを
彼女はおそらく仕事のためにオアハカに向かうのでしょう。僕はバカンスのためにオアハカに行く
ならば300ペソぐらい黙って払えばいい、それにあの運転手もたまたまポンコツバスに割り当てられただけかもしれない。
そう思い直しました。
僕は替わりのバスが来るまで外で待っていました。
ふと空を見上げるとこれでもかというほどの満点の星空が広がっていました。
ふと沖縄の宮古島で見た星空を思い出しました。
あの空とどっちが綺麗だろうか?
気分的には宮古島の圧勝です。
しかし、圧倒的な星の美しさはどこから見ても変わりありませんでした。
それから二十分ほど待ち、代行のバスが到着しました。
最初のバスで指定した座席はすでに別の人の席になっていて、僕は仕方なく他の席に座ることにしました。
僕は車に酔いやすい体質で一番前の席を取っていたのです。
すべての計画が潰れてしまいました。
さっきお金がないと言っていた初老の女性はどうなったのでしょうか。
窓の外を見渡しましたがどこにもその女性は見えませんでした。
車内は暗くてよく見えません。無事に乗っていることを願います。
それぐらいの融通はこれだけラフな国なのですから利くはずです。
空が薄紫色に染まる頃、バスは出発しました。
そしてオアハカに到着したのは午前11時を少し回った頃でした。
約15時間の道のりで700ペソ、一等バスなら……
考えても仕方ないことです。
これが二等バスに乗るということです。
とはいえ、また次回の移動も二等バスに乗ることでしょう。
とにもかくにも無事オアハカに着いたのですから。
コメント