女の夢

随想

昔好きだった女の夢を見た。

夢の中の僕たちは楽しそうに腕を組んでショッピングをしていた。

会話の内容は覚えていない。それにしても楽しそうだった。

旅に出てから何回か同じように昔好きだった女の夢を見る。

ある事情で諦めた女もいれば、まったく相手にされなかった女もいる。

自分の人生の中で強烈に影響を与えられた女もいれば、さほど覚えていない女もいる。

夢に出てくる女はすべてうまくいかなかった女だ。

それなのに身体を寄せ合って歩いていたし、僕はもっと触れていたいとも思っている。

不思議とセックスをしたことのある女は出てこない。

ふと目が覚め、時計を見るとまだ起きるには早すぎる時間だった。

僕は少し興奮しているのか、それからすぐに寝つくことはできなかったので、なんでこんな夢を見るのか考えた。

寂しいのだろうか

欲求不満なのだろうか

逆に充実しているのだろうか

そもそもこういった夢はネガティブな精神状態から出てくる夢なのだろうか。それともポジティブな精神状態から出てくる夢なのだろうか。

一人旅をしていると無性に人恋しくなる時がある。

それは体調を崩した時だ。

つい先日、メキシコのサン・クリストバル・デ・ラス・カサスに滞在していた時、腹を壊した。

たぶん食当たりだろう。

最初は胃が弱っているのかな、という程度の不快感だったがやがて発熱し、あとから下痢になった。

幸い、嘔吐や湿疹などの症状は出ていなかったので熱が治まるのを寝て待った。

これまた幸いにも熱がピークの夜、七人部屋のドミトリーに滞在していたが「死者の日の祭り」の次の日だったためか一人で部屋を独占でき、誰にも迷惑をかけることはなかった。

しかしその夜、僕は不安でしかたなかった。

何が不安なのかわからない。

症状が悪化することはまずないとわかっていたし、この先についても何も不安な要素はなかった。

おそらくこれから何度か同じように腹を壊し熱にうなされ、また回復し次の目的地へ向かう。それは旅をしていると当たり前のことだ。

しかしどこか心臓の端っこに不安が付きまとった。

その夜僕はどうしようもなく女の身体を抱きしめたくなった

そうすれば、熱からくるあちこちの身体の痛みから解放されぐっすり眠れるような気がした。

そしてその夜一番好きだった女の夢を見た。

その時と同じように今日も好きだった女の身体を抱きしめた。

甘い髪の匂いを嗅いだ。

やっぱり寂しいのだろうか

いつも何らかの不安が付きまとっているのだろうか。

だから昔好きだった女の夢を見て、不安や孤独を紛らわせているのだろうか。

ではなぜうまくいかなかった女なのだろうか。

わからないまま、また眠りについた。

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